2007年度 日本語教育学会   第1・2回研究集会報告

平成19年第1回・第2回研究集会報告
日本語教育学会九州・沖縄地区研究集会委員  清水・横溝・小山・花田・川邊


6月2日(土)13:00〜17:10 / 6月3日(日)10:00〜16:30
会場:久留米大学500号館1階(御井キャンパス)

第1回研究集会

1)研究発表(13:10〜15:25)

内  容: 研究発表12本  ポスターセッション5本
参加人数: 94名(会員 50名,一般 44名)

 今回の研究発表は大学院生10件、現職者7件で、4会場に分かれて行われた。内容は、文法、音声、習得、教師の役割、ストラテジー、学習環境開発、実践報告など多岐にわたり、各会場とも熱気溢れる発表だったようである。過去最高であった昨年度の研究集会(於鹿児島)を更に上回る発表があり、運営も滞りなく進められ、全体の雰囲気も非常に活気があった。今後も、様々な地区での開催を進めていきたいと考えている。

プログラム

《第1会場》
・友人との日本語の会話における終助詞の男女差 −L1とL2の比較−
           平川彩子(久留米大学 院生)

・連体修飾節内のテンスについて
   −「川岸にあった古かった木はもうなかった」の正否をめぐって
           坂梨瑠璃(熊本県立大学 院生)

・「仕事を持たない人」という表現に関する考察
           平田真理子(熊本県立大学 院生)

・御(お)と御(ご)の使い分け
           堀尾佳以(九州大学 院生)

《第2会場》
・ピア・レスポンスにおける教師の役割 
−意見文と説明文の比較から−
   黒田志保(京都文化日本語学校)

・中国の大学における日本語母語話者教師の役割
   −意識と教授スタイル調査から−
           青木幸子(九州大学 院生)

・工学を専門とする大学院留学生のための学習環境デザイン
   −インタビューによる探索的調査から−
           重田美咲(広島大学 院生)

・韓国人日本語学習者の談話ストラテジー
   −多用しているもの・不足しているもの−
           吉里さち子(鹿児島大学 留学生センター)

《第3会場》
・視点選択に影響を及ぼす要因に関する考察
   −習得研究への応用をめざして−
           武村美和(九州大学 院生)

・シャドーイングにおける学習者の気付き
   高橋恵利子(広島大学 院生)

・日本語学習者による真偽判断のモダリティの習得過程
   −コーパスデータの分析を通して−
          謝佩津(九州大学 院生)

・日本語学習者における格助詞「に」に関する一考察
          福元美和子(久留米大学 院生)

ポスター発表
《第4会場》 
・別科における漢字圏学習者への漢字語彙指導の実践報告
   −音と運用を意識した指導−
           花田敦子(久留米大学 国際交流センター)

・初級クラスの機能的会話授業と評価方法についての実践報告
           権藤早千葉(久留米大学 国際交流センター)

・国内の日本語教育機関における口頭能力試験とその評価法
           池田富見子(久留米大学 留学生別科) 
           共同研究者 松田輝美(久留米大学 留学生別科)
           田崎妙子(熊本学園大学)平松眞理子(福岡国際学院)

・研究留学生のための予備教育コースにおける「三者面談」の実施とその効用
           吉川裕子(九州大学 留学生センター)

・能力差のあるクラスにおけるディベート効果
           小川ひろみ(弘堂国際学園)             

◎会場担当者からの報告

第1会場

第一会場は、大学院生による日本語文法に関する発表が4件あり、内訳はL1・L2
の文法比較に関するもの1件、連体修飾節構造に関するもの2件、語構成に関するも
のが1件であった。会場は十分に広かったが参加者が少なく、質疑もさほど活発では
なかった。研究途中の発表や、例の説明に終始している発表が気になった。発表者
は、日本語教育の現場に立つ聴衆に対して自分の研究のポイントを明確にアピールし
て「聞く価値のある」ものにする工夫が必要だと思われる。(福岡大学 江口)

第2会場

 第2会場は、「ピア・レスポンスにおける教師の役割」、「中国における日本語母
語話者教師の役割」、「大学院留学生のための学習環境デザイン」、「韓国人日本語
学習者の談話ストラテジー」と日本語教育に関わるバラエティーに富んだ発表がなさ
れた。発表者の4人のうち2名は大学院生であったが、お二人とも教育実践の経験が
あり、4人が皆、実践者としてそれぞれの視点から現場の教育の問題点について触れ
られていたため、内容的には大変興味深かった。中には研究途中と思われる発表も
あったが、互いに問題点を共有することができ、それはそれでよかったのではないか
と思う。(九州大学 小山)

第3会場

第3会場は、音声、文法、認知など焦点は異なるものの4件とも第二言語習得に関す
る発表であった。また、全て大学院生による発表であった。いずれの発表も持ち時間
の中で活発な質疑応答や意見交換が行われた。特に、発表者が全員大学院生だったこ
ともあり、今後の研究活動につながるようなコメントが多く見られた。1点だけ残念
だったのは、音声に関する発表の際、発表者から音声データが提示されたが、発表
者・司会者・タイムキーパーともに設置してある音響機器に不慣れだったため音量調
整をすることができなかった点である。今後は、会場に携わる者が事前に機材の確認
をしておくことが望ましいのではないかと感じた。 (九州大学 大神)

第4会場

ポスター・セッション会場では、昨年同様、報告者・聴衆それぞれに「参加に際して
のルール」の遵守をお願いした。開始と同時に、それぞれのポスターのブース(5
つ)の前で、活発な質疑応答・意見交換が行われ、その状態は終了時間まで2時間半
ほどずっと継続していた。
報告者は全員発表時間終了後、心地よい疲労感と大きな充実感を覚えていたようであ
る。会場全体の雰囲気を和らげるためにBGMを用意したのであるが、それがほとんど
耳に入ってこないほど、エネルギッシュな2時間半となった。座って話ができる場の
確保も今年は実現し、会場校のご厚意による「花」も会場の雰囲気作りに大きな役割
を果たしていた。実践報告としてのポスター・セッションのデザイン・運営の面で、
大きな可能性が感じられた。
改善点として、他会場の発表とポスター・セッションが同時進行で行われているた
め、聴衆が「どちらかを選ばないといけない」状態となっていることへのご指摘が何
度かなされた。時間の配分については、様々なことを考慮に入れなければならない
が、来年度に向けて検討すべき事項であろう。  (佐賀大学 横溝)


  
   「研究発表の様子」           「ポスター発表の様子」


15:25〜15:40 休憩 


2)講演(15:40〜17:10)

講師:當作靖彦氏 (カリフォルニア大学サン・ディエゴ校)
題目:「日本語学習環境の改革をめざして―アメリカ合衆国の試み」       
   ―アメリカにおける外国語標準とそのインパクト―


 −講演内容−

 アメリカ合衆国では、できるだけ高い学習目標を立て、それを達成できるように、学習者、教師、教師養成者の全てのレベルで標準を設定し、教育全体の質を向上させる取り組みが進んでいる。
 本講演では、アメリカの全米外国語協会が1996年に発表した外国語教育のスタンダードの内容、特徴とその影響に焦点が当てられた。このスタンダーズ・ムーブメントが沸き起こった背景から現在に至る流れを軸に、教育の質を上げるために教師は何ができるのかという問題意識、また今後、日本での日本語教育の現場にどのように応用できるのかといった観点を絡めながら、非常に幅広く、かつ詳細に述べられた。主な内容を以下に示す。

 外国語標準は、基本原理、序言、ゴール領域と標準、学習指標サンプル、学習シナリオサンプルの5つの項目から構成されている。ゴール領域と標準においては、外国語教育で扱われるべき5つのゴール領域と11の標準が示されている。その5つのゴール領域は、コミュニケーション、文化、連携、比較対照、地域・グローバル社会(5つのC)である。
 コミュニケーションにおいては、対人的、解釈的、提示的コミュニケーションの3つが標準として示されている。真のコミュニケーションは、状況、理由、何を誰に伝えるのかなどが設定されて初めて生じてくる。
 文化については、従来のLarge C, Small C Culture中心の教え方では、ステレオタイプを作ってしまう。従って、文化を3つのP(practice, product, perspective)によって理解することが重要である。学習者が自分でパースペクティブ(文化の意味、価値、アイディア)を理解できるようになることが目標となる。連携では、外国語以外の教科と関連づけ、情報を獲得することが目標とされ、内容重視の外国語教育が求められる。必然的に、生教材の使用が促進される。比較対照では、学習者の母語と外国語を比較し、言語や文化の違いだけでなく、類似点も学習者が自分で見つけられるようになることが目標とされる。
 地域・グローバル社会では、クラスの外に出て、学習対象の言語に触れ、言語を個人的な楽しみや自己研鑽のために使い、人生を通して言語を学んだり使用したりすることが目標となる。以上の5つのゴールを組み合わせ、調和のある外国語教育に取り組むことが重要である。
 学習標準に基づいて、カリキュラム、レッスンの詳細が決定され、教材作成、評価が行われる。学習目標を明確に提示するこの動きは教育の質を高めるだけでなく、多様な学習者のニーズに柔軟に対応し、学習者は効果的、効率的に外国語が学べるようになる。教師標準、教師養成・研修の標準も作成され、外国語教師の14のスタンダーズが示された。特に、学習のモチベーションが上がるようにすることは、教師の重要な資質の一つである。 

3)懇親会(17:30〜20:00)   
会 場:久留米大学生協「欅」
参加者:36名


2.第2回研究集会(10:00〜16:30)

参加人数: 31名(会員 22名,一般 9名)
内容:会員研修
講師:當作 靖彦氏(カリフォルニア大学サン・ディエゴ校)
題目:「学習者の能力向上のために、教師は何ができるか?−評価の役割を考える−」

前日の講演に引き続き、當作氏による会員研修が行われた。「ワークショップ形式」の採用により、一日を通して、受講者の積極的な参加が見られた。カリキュラム全体の中での評価の役割を一つ一つ吟味していく中で、「よいテストはよい学習・教育を生む」という講師からのメッセージが、多くの受講者にとって、翌日の授業の工夫へとつながる活力となり、非常に有意義だったと思われる。まさに「学習者の能力向上のために、教師は何ができるか?」という大きなテーマを、参加者全員で探求した研修であったと思う。


  
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