2007年度 日本語教育学会   第1・2回研究集会報告

6月21日(土)13:00~17:10 / 6月22日(日)10:00~16:45
会場:沖縄国際大学5号館   研究集会委員 横溝・小山・大城


1. 第2回研究集会(九州・沖縄地区)

参加人数: 121名(会員 57名,一般 64名)
内容:研究発表14本  ポスターセッション3本

今回の研究発表は大学院生10件、現職者7件で、5会場(口頭発表4会場、ポスター発表1会場)に分かれて行われた。内容は、言語政策、文法、教師教育、音声、習得、ストラテジー、実践報告など多岐にわたり、各会場とも熱気溢れる発表となった。過去最高であった昨年度の研究集会(於久留米)と同数の発表があり、運営も滞りなくアットホームに進められ、全体の雰囲気も非常に活気があった。

プログラム

[研究発表] 13:10~15:25

《第1会場:口頭発表》 司会:大城朋子(沖縄国際大学)

13:10~13:40 台湾と沖縄における言語選択
—大学生に対するアンケート調査より—
             松尾 慎(東海大學)
13:45~14:15 沖縄県の学校教育における人称表現の研究
             高橋美奈子(琉球大学
14:20~14:50 日本植民地時代に台湾における日本語学習者が使い続ける日本語の意義
—Tove Skutnabb-Kangas/Robert Phillipsonの母語の観点から—
             横川 彰(東海大學)
14:55~15:25 高校交換留学生の日本留学に対する印象
—日本滞在期間の比較から—
             岡部 悦子(早稲田大学)


《第2会場:口頭発表》 司会:金城尚美(琉球大学)

13:10~13:40 日本語学習者と古典日本語文法
—学習者が求めるもの・学習者に求められるもの—
             春口淳一(長崎外国語大学)
13:45~14:15 台湾における日本語学習者の実態
—2006年度台湾における日本語教育事情調査から—
             中尾真樹(義守大学)
             上條純恵(交流協会高雄事務所)
14:20~14:50 日本語非母語話者教師の「役割」とは何か
             レイン幸代(広島大学大学院生)
14:55~15:25 海外における日本語教育実習の実践報告
—受け入れ期間としての取り組み—
             石川清彦(屏東商業技術学院)
             劉秋燕(屏東商業技術学院)


《第3会場:口頭発表》 司会:東 陽子(琉球大学)

13:10~13:40 否定表現について考える「食べませんでした」と「食べていません」
             木下泰臣(祥明大学校)・馬場良二(熊本県立大学)
13:45~14:15 「というN」と「といったN、「といわれるN」、「〜のN」の区別
—学習者の立場から—
             楊紅(立命館大学短期留学生)
14:20~14:50 中日助数詞の比較と翻訳
—修辞的機能を持つ中国語助数詞を中心に—
             李 一函(九州大学大学院生)


《第4会場:口頭発表》 司会:小山 悟(九州大学)

13:10~13:40 動物を数える日中同形助数詞の認知的考察
             道山幸司(九州大学大学院生)
13:45~14:15 中国語話者の日本語の漢字理解におけるコンテクストの効果
             平川彩子(久留米大学大学院生)
14:20~14:50 日本語学習者の「断り」のストラテジーに関する
一考察—インドネシア人・台湾人日本語学習者のデータに関する分析より
             藤原智栄美(茨城大学)



《第5会場:ポスター発表》 司会:横溝紳一郎(佐賀大学)

13:10~15:25 国際交流活動への参加が中高生と地域外国人の学びと意識変容に及ぼす効果
             古本裕美(広島大学大学院生)


無償日本語教材の利用者参加型開発を目指して
             山元淑乃(琉球大学)・山本 広志(山形大学)

自己モニターを用いた音声教育活動における教師の役割
             河野俊之(横浜国立大学)




会場担当者からの報告

第1会場
 
4件の発表のうち3件は台湾・沖縄に、1件は高校交換留学生の適応比較に関する発表であった。沖縄の若年層における言語シフトが台湾の大学生より急速に進んでいること、また、沖縄では人称表現の使い方から学校が家庭の延長線上の「ウチ」であること、母語が人の生涯の中で変わるうること等が明らかにされ、高校交換留学生のための事前研修等の必要性が明らかにされた。会場の規模は聴衆の人数にちょうど良く、また、机椅子の配置がロの字型であったため質疑応答が活発に行われた。しかし、いったん奥の方に入ってしまうと、時間制限の中で教室移動がしにくいことが難点であった。 (沖縄国際大学 大城)


第2会場

第2会場では古典日本語文法教育に関する発表が1件、台湾における日本語教育の実態調査に関する発表が1件、日本語非母語話者教師の役割について考察した発表が1件、海外における日本語教育実習の実践報告が1件、計4件の発表があった。いずれの発表も20名から25名程度の聴衆の中で行なわれたが、最も聴衆の関心をひいたのが3番目の日本語非母語話者教師の役割に関する発表で、30名を超える聴衆が集まった。どの発表でも質疑応答が活発に行なわれ、研究をさらに深めたり発展させたりするための示唆も会場から示された。今後、各研究がより一層、精緻なものになるよう、また教育現場へ還元されることを期待したい。(琉球大学 金城)

第3会場

第3会場は、文法に関する発表が2件と翻訳に関する発表が1件行われた。題目は、過去否定について考える「「食べませんでした」と「食べていません」」・「というN」、「といったN」、「といわれるN」、「~のN」の区別―学習者の立場からー・中国助数詞の比較と翻訳―修辞的機能を持つ中国語助数詞を中心にーであった。発表者は全員大学院生であったが、日本語を現場で教えている人・学習している人、母語話者・非母語話者とバラエティーに富んでおり、その立場の相違が逆に、会場との活発な意見交換の原動力となった。また、データ収集に関する率直な質問も出されたが、全般的に大変興味深い研究発表だったと思われる。タイムキーパー役をテキパキとこなしてくれた沖縄国際大学の学生さんのお蔭で、スムーズな進行となった。(琉球大学 東)


第4会場

第 4会場では、「動物を数える日中同形助数詞の認知的考察」、「中国語話者の日本語の漢字理解におけるコンテクストの効果」、「日本語学習者の「断り」のス トラテジーに関する一考察」という3本の研究発表が行われた。最初の発表は日本語母語話者と中国語母語話者がそれぞれどの動物にどの助数詞を使うかを調査 し たもので、日本語と中国語では同じ漢字(例えば「匹」)を使用するからといって、その適用範囲まで同じとは限らないということがわかり、非常に興味深かっ た。2本目の発表は、中国語母語話者の漢字語彙の習得について調査したもので、コンテクストの有無が意味の理解にどのような影響を与えるかを、学習者の習 熟度、語彙 タイプ、語彙レベルなどの点から多角的に分析しており、語彙の指導法を考える上で大変参考になった。最後の発表は、「断り」におけるインドネシア語と中国 語のpragmatic transferを調査したものであった。談話完成テストを300人近い被験者に行った意欲的な研究で、これも大変興味深かった。今回は3人の発表者のう ち2名が大学院生(うち一人は修士1年生)であった。九州には日本語教育を専門に教える大学院はほとんどないが、日本語教育を勉強している院生はあちこち の大学に点在しており 、その学生たちに地域研究集会での発表を促すことで、互いの交流がより深まればと感じた。(九州大学 小山)


第5会場

ポスター・セッション会場では、「国際交流活動が中高生及び地域外国人にどのような学びと意識の変容を引き起こすか」「無償日本語教材の開発」「学生が自己の発音をモニターしている時、教師は何ができるか」についての3件の発表がなされた。昨年そして一昨年同様、会場全体の雰囲気を和らげるために用意されたBGMが流れる中、活発な質疑応答・意見交換が行われていた。会場内の温度調節がうまくいかない時間帯があったこと、会場の行き来のための時間が十分に確保できないケースがあったこと等が、来年度に向けて検討すべき事項として挙げられるであろう。 (佐賀大学 横溝)

 
口頭発表会場の様子 ポスター発表会場の様子


15:25~15;40 休憩
15:40~17:10 講演
18:00~20:30 懇親会


講演:田尻 悟郎氏(関西大学外国語教育研究機構・教授)
題目「生徒の心に火をつける!田尻実践を体験してみませんか?」

(講演内容)
私の座右の銘は「下手な教師は教える。上手い教師は学ばせる。そして、素晴らしい教師は生徒の心に火をつける」です。私は英語教育の現場で、4技能(読む・書く・聞く・話す)を有機的に結びつけながら、InputとOutputの流れを重視し、生徒を惹きつけるための様々な工夫をしてきました。終了チャイムが鳴ったとき「え、もう終わったの!」という声が生徒から上がる授業を、皆様に体験していただきたいと思います。 
(「講師から一言」より)


(司会からの報告)
また、田尻氏による聴衆参加型の講演は、「目からウロコ」の実践に役立つヒント満載で、多くの聴衆に「あっという間だった」「非常に役に立った」「感動的だった」などの感想を生み出し、会場全体が熱気に包まれていた
(佐賀大学 横溝)



 

[懇親会] 18:00~20:30
その後開催された懇親会でも、研究集会の熱気は継続した。最後は開催校の沖縄国際大学の学生を交えて、参加者全員でカチャーシーを踊るという、沖縄ならではのとても楽しい会となった。
(佐賀大学 横溝)


 


2. 第3回研究集会(九州・沖縄地区)


参加人数: 91名(会員 45名,一般 46名)
内容:会員研修

講師 田尻 悟郎氏(関西大学外国語教育研究機構・教授)
題目「生徒の心に火をつける!田尻実践のナゾを解明する!」

(研修の内容)

生徒の心に火をつけるためには、アイデアマンやパフォーマンス上手であるだけでは不十分です。教師による様々な働きかけの一つ一つが、複合的そして有機的に絡み合ってはじめて、生徒の心に火がつき始めます。例えば、到達したい最終ゴールをまず設定し、その実現のために、様々な教室活動を有機的に組み合わせた上で、全体像をいつも見ながら、毎日の教室活動での生徒たちのパフォーマンスによって、調整し続けること。「今、これを行っていることが、次にこうつながるんだ」という認識を生徒たちと教師が共有していること。一つ一つの活動で生徒を飽きさせずやる気を出させる工夫をすること。これらは必要不可欠な要素の一部です。私の英語教育実践の全体像に触れていただくことで、生徒の心に火がついていくメカニズムを理解していただければと思います。 (「講師から一言」より)



プログラム

10:00~10:30 田尻悟郎氏のライフヒストリー
(ビデオショーにより、田尻悟郎氏のこれまでの人生を振り返る)
10:30~12:00 「自学」の秘密
田尻悟郎氏と自学との出会い、変遷、そして、自学を行う際に大切なこと
12:00~13:00 お昼休み
13:00~14:30 様々な教室活動の工夫とつながり:その1
学習項目の導入(文脈の中での導入)→文法説明→ドリル練習
14:30~14:45 休憩
14:45~15:45  様々な教室活動の工夫とつながり:その2
応用練習→自己表現活動(詩/スピーチ/ディベートなど)
15:45~16:00 休憩
16:00~16:45 ご本人に聞いてみよう!田尻実践のヒミツ(質疑応答)

(司会からの報告)

前日の講演に引き続き、田尻氏による会員研修が行われた。この研修は、田尻氏のライフヒストリーの紹介→「自学」の秘密(どのような形で積極的な家庭学習を促していくのか)→様々な教室活動の工夫とつながり→Q&A、という一日を通した研修によって、田尻氏が生み出す圧倒的な授業の「幹」、すなわち①目の前の学習者を深く理解し、②学習・教育の理論的知識をしっかりと保有し、③到達したいゴールを設定し、それを実現するための道筋を提案し、その実現に向けて学習者と共に歩み続ける、という教育実践の全体像の紹介を目標としていた。その結果、「明日からの授業、失敗を恐れずチャレンジしていきます」「早く教室に行って、自分の学習者に会いたいです」「ことばの教師として、自分自身を成長させていきます」等、前向きな感想が多くの参加者から生まれていた。学習者の心に火がついていくメカニズムを理解していく中で、参加者自身の心に火がついていく、というユニークかつ非常に有意義な研修であったと思う。 (佐賀大学 横溝)



 


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